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道草 [旅景]





 大磯散歩 その二  「道草」




大磯214.JPG
〔01〕












大磯216.JPG
〔02〕



九月二十一日(土) 撮影


駅裏の急傾斜地に、
へばりつくように家が建ち、
そこを縫うように這う道は、
綴れ折り坂道。

その坂道の上り始めて間もなく、
古い一軒の日本家屋があり、
門に「喫茶」との立札がありました。


喫茶、
住宅地の中の思いがけない存在に、
多少戸惑いながらも、
案内人に誘われるまま玄関に向かいます。

玄関で足元を落とせば、
細石の洗い出しが出迎えてくれます。
左官職人の仕事の上に立てば、
長旅の足裏を癒します。

玄関を上がり喫茶室へ。
そこは和室で畳が敷かれています。
部屋には自然光が柔らかく届き、
仄かな空間がありました。

卓に向かい座して庭に目をやれば、
古いガラスに揺らぐ景色が映ります。
更にその先へ目をやれば、
遠くに小さく海を見ることができます。
景色の中に埋もれるほどに小さな海は、
見る者の心がそこへ向かないと、
海の様子を窺い知ることができません。
空を映す色や風に立つ波濤などは、
目にしただけでは感じ取ることが出来ず、
各々が持ち合わせた海の想いから浮かび上がる映像がそこに浮かび上がります。


しばらくは、
外の景色に目を奪われていましたが、
一度室内へと目をやれば、
落ち着いた色合いの調度に、
旅の途中であることを忘れさせる空間があることに気が付きます。
庭と対峙する床の間に、
足が長く屈折した自然光が届き、
一幅の軸が仄かに浮かび上がっていました。
その表装の色合いに目が止まり
読み解くことの出来ない所にしばし心を奪われました。
こうした出会いは旅の印象に深く刻み込まれます。


一杯の珈琲を頂き、
喫茶を後にする間際、
薄暗い玄関で靴を履き上方に目をやれば、
我が三歳の娘に買い与えた蕎麦猪口と同じ絵柄が、
照明のシェードに描かれていて、
益々この喫茶が身近に感じたのでした。



    *



予期せぬ喫茶との出会い、
脳裏に焼き付いた光景など多々ありますが、
その空間の雰囲気に浸り、
写真に撮ることが出来ませんでした。

大磯という地を、
心の中で再訪を誓っていますが、
その節には、
きっとこの喫茶へ足を運ぶことでしょう。


三時間と限られた時間の中での道草、
より多くの場所を尋ねるには、
一見無駄な時間のようにも思われますが、
素晴らしい時間を与えて頂きました。
道草は、
何と言うことのない散歩に、
一つの潤いを与えてくれるものであります。










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